陳氏太極拳 王西安老師に学ぶ 二人の師匠 その3


陳氏太極拳 王西安老師に学ぶ 二人の師匠
王西安大師の門弟135人の紹介されている本が、5年の歳月を経て昨年の5月に中国で出版されました。以下は翻訳です。

「太極的力量-王西安和他的弟子們」 河南科学技術出版社 

  山口博永老師 その3

「幾山河を越え太極の真諦を追い求める」

 「私の太極拳修業の道で最も幸運だったのは王先生の弟子になれたことであり、恩師の身辺で私が得たのは拳技のレヴェル向上のみならず王先生の胸中の暖かさでした。練習の時には厳格な師でしたが、普段の生活の中では父兄のようでもありました。」何年か後、既に著名な太極拳大師王西安の直近弟子となっていた山口博永は、当初の様子を振り返ると、決まって感情が高ぶるのである。日本から中国へ、一太極拳愛好者から名師の高弟になった時まで、山口博永の師を求める道は、曲がりくねってドラマチックであったと云わずにはおれない。
1978年、中日の国交成立に伴い両国の民間組織も友好的な交流を開始した。山口博永は一人の武術愛好者として訪中団に同行した。しかしその回には、希望通りに陳家溝に行くことはかなわず、中原行きは省都鄭州止まりであった。遠方から客人を迎えようと当時の鄭州側は盛大な歓迎会を催し、武術の里の太極拳高手が全員現地にやって来て、日本人のために極めて大がかりな太極拳の表演を行った。連綿として柔らかく、リズムカルで力強い太極拳の表演は再び山口の心を揺さぶり、太極の根源までさかのぼる決心を更に確固たるものとした。
1981年、山口博永は日中友好団に同行して陳家溝を訪れ、太極の郷の拳師達と直接交流することになった。村の高手王西安が登場して彼等のために「炮捶」という套路を表演した時、山口はすぐさま感動し、「この人は3年前のあの鄭州で表演した先生ではなかろうか?」と思った。もとより、3年前に鄭州で出会ってからは山口は陳家溝よりやって来た王先生のことをしっかり記憶しており、3年という時を隔ててすばらしい拳法を見せる王先生に、思いもかけず再開することになった。王先生の表演を見て、山口は最早平静ではいられなかった。王先生の拳はあまりにも素晴らしいものであった。剛柔相済にして滔々と流れが絶えることはなく、広大無辺な大気のようでもあり無限の優雅さを内包してもいた。これこそが真の太極拳であり、太極の根源であり、自分が何年も探し求めてきた太極の魂だ! 山口は平静ではいられず、ただちに携帯していた8ミリカメラを取り出して王先生が演じる炮捶の一部始終を撮影したのであった。
陳家溝より帰国すると、山口博永は王先生を自分の先生として、撮ったビデオを見ながら毎日王先生の拳を懸命に練習した。しかし練習が進むにつれて、困惑し分からない部分もますます多くなっていった。その時山口は初めて、太極拳は真に広く深いもので、その奥底に内包するものは型からだけでは理解し悟ることはできないと分かった。そうした複雑な問題は、先生の教化によってこそ解答が見つかるものであった。王先生に拝師することは山口の更に差し迫った願望となった。
1986年、山口博永は希望がかなって陳家溝を再訪し、正式に王西安に拝師した。山口はそれより、数十年に及ぶ猛練習を始めることになったのである。
20年近くがあっという間に過ぎ、今では王先生の多年にわたる心を尽した指導の下で、山口博永の太極拳技も既にかなりの高みに達している。「王先生に習い始めたばかりの時、先生は非常に真剣に教えてくれ、いつも口で伝えるだけでなく身をもって手本を示され、我々に先生の体内の気の流れに触れさせてくれました。その時に分からなくても、こんなに何年にもわたる猛稽古を経ると、再び身体に触れさせてくれた時には、我々は容易にその道理を理解出来ました。」(次回に続く)


«