第7章 小僧生活

小僧生活昭和四十年三月十九日、私は自転車の後ろに着替えその他日常に必要な物をダンボール箱三箱に詰め込んで載せ、これから始まる質素な禅寺の生活を覚悟して意気揚々と寺に入りました。
しかし、初日の夕食は、私の一番苦手な鰺の空揚げでした。でも皆でお経を唱えながらの食事はうれしかった。
寺の生活の初日は元気で張り切っておりましたが、どうしたことか三日過ぎた頃からやたらと淋しくなって、山門を見る度に強迫観念に襲われ、打ちのめされました・・・。
(もう門から出てはいけないんだ、家に帰れない!両親と兄弟にも会ってはいけない・・・、友とも、もう会うことは許されない)と思うと寂しくなって、本堂の横の日溜まりで、頭からタオルを被り寒さに震えておりました。
・・・
ところが得度式(出家)の準備とかで、一週間後にその用件を両親に伝える為に家に帰されました。
その日、父は私に向かって「もう寺に帰るな!」と大激怒いたしました。それもそのはずで、信じられない事ですが一週間の間に体重が八キロも落ちていたのです。
小僧生活 右の写真ですが、私は拳を握り座っております。
僧が座る時、手は法界定印といって坐禅のときと同じ形にする習慣を私は知っていたのですが、しかし出家後の記念写真を撮る時、私はその燃え上がる感情を抑えきれずに、あえて手を拳にしたのです。
師はこの写真を見て案の定「何だ!この手は!?隣にいる僧も何で注意せんのか!」と、オカンムリでありました。
しかし、次第に私の気持ちが通じていったのか「まあいいか・・・、いやこれは面白いかも!?いかにも、なぁ、やる気がでててー、うん!!ええで~、これ~、やるぞ!ってー、アッハッハッハー、お前らしいなぁ、ええ記念写真になったでぇ」と、顔を紅潮させておりました。
私は、気持ちが通じて、嬉しかった。